交通事故による脳脊髄液減少症、慰謝料はもらえる?

一度交通事故による被害を受けると、その影響が何年も続くことがあります。目に見えるケガは治ったのに、ずっと強い頭痛や耳鳴りがおさまらない。こんな症状に心当たりはありませんか。もしかしたらそれは「脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)」かもしれません。

脳脊髄液減少症の症状と、交通事故の後遺傷害としての扱いについて説明します。

脳脊髄液減少症って何?

「脳脊髄液減少症」と言われても、あまり聞き慣れない病名です。徐々に医師の間でも認知されるようになってきた病気です。人間の脳や脊髄は、硬膜という膜に包まれ守られています。この膜の中は脳脊髄液(のうせきずいえき)という液体で満たされています。

脳は脳脊髄液の中で、プカプカと浮かんだ状態になっています。医師の間では、硬膜は滅多なことでは損傷しない、というのがこれまで主流の考え方でした。しかし、何らかの原因で硬膜に破れが発生し、脳脊髄液が漏れている症例が、従来考えられていたよりも多く存在することが分かってきました。

交通事故やスポーツ中の激しい接触などで、頭部に強い衝撃・圧力がかかった時に起こりやすいとされています。頭部への衝撃で硬膜のどこかが破れ、脳脊髄液が漏れ出てしまうと、脳脊髄液減少症の症状が現れます。出産時のいきみのような内部からの圧力でも同様の症状が出ることがあります。

また脱水症などで、体内の水分量が極端に減った場合にも、脳脊髄液が影響を受けて脳脊髄液減少症の症状を呈することがあります。しかし原因が不明なケースも多くみられます。

脳脊髄液減少症の主な症状は?

立ち上がった時に激しい頭痛を感じる、起立性の頭痛がいちばん顕著な症状であるとされています。その他にも、めまい・耳鳴り・吐き気・倦怠感など様々な不快症状があります。脳や脊髄などの神経系の症状としては、光や音に敏感になる光過敏症や聴覚過敏症が挙げられます。

集中力の低下から引き起こされる、記憶力の低下や睡眠障害など、脳脊髄液減少症の症状は多岐にわたります。全員に同じ症状が一律にみられるということはなく、かなりの個人差があります。また1日の中でも症状が良くなったり悪くなったりする傾向がみられます。

天候によって気圧が変動し、それが脳脊髄液減少症の症状に影響することがあるためです。

脳脊髄液減少症を診断する方法はあるの?

脳脊髄液減少症は未だに研究中の病気といわれていて、確実な診断方法はまだありません。いくつかの検査の結果を組み合わせて診断するのが一般的です。MRIなどの画像診断で、脳脊髄液が漏れている箇所を特定できることもあります。

また腰椎穿刺(腰椎に針を刺して髄液を抜き取ること)を行うことによって、脳脊髄液の圧力をはかって、脳脊髄液減少症を証明することもあります。最近では、2011年に厚生労働省が発表した「厚労省中間報告基準」に記されているガイドライン

と、2013年に国際頭痛委員会が発表した「新国際頭痛分類基準」が、信頼度の高い診断基準であるとされています。

脳脊髄液減少症の治療法はあるの?

脳脊髄液減少症の治療は、主に3つの方法で行われます。1つ目は「保存療法」です。頭部に外傷を負って、脳脊髄液減少症の症状が現れた場合、最初に行われる治療法です。1日のほとんどを寝たままの絶対安静を基本として、水分を多く補給して過ごします。

脳脊髄液減少症のほとんどは、こうして減ってしまった脳脊髄液を回復させることで、2週間程度で自然に治ることも多い病気です。2つ目は「ブラッドパッチ療法」です。硬膜外自家血注入療法とも呼びます。

上記の保存療法で経過を見ても、症状が良くならない場合に行います。保存療法で症状の改善が見られない患者は、脳脊髄液が漏れ続けていると考えられます。保存療法を行って脳脊髄液の量を回復させても、漏れている穴を塞がないことには症状が無くなりません。

ブラッドパッチ療法では、患者本人の血液を硬膜と背骨の間に注入し、漏れ出る穴を塞ぎます。

現在では、脳脊髄液減少症にもっとも有効な治療法であるといわれています。2016年に保険が適用される治療法に認められました。3つ目は「人口髄液療法」です。保存療法とブラッドパッチ療法、どちらも効果がなかった患者に対して行う治療法です。

人工的に作られた脳脊髄液を、患者の硬膜内に注入します。

脳脊髄液減少症は、後遺障害として認められる?

脳脊髄液減少症は、2011年に厚生労働省のガイドラインが発表され、2016年には効果的な治療法であるブラッドパッチ療法の保険適用も認められました。それでもまだ医師の間での認知度は低く、交通事故の場合はむちうちとして診断されることも多い状態です。

以前は保険会社や裁判所も、そもそもこの病気自体が存在しない、という否定的な立場をとっていました。診断基準のガイドラインや治療法の確立に従って、ようやく交通事故の後遺障害として認められる可能性が出てきた、という段階といえるでしょう。

それでも保険会社に請求して、すんなり慰謝料が支払われる、という状況ではありません。脳脊髄液減少症を理由として慰謝料を請求する場合は、個人で交渉することは現段階では難しく、弁護士を立てることがほぼ必須であると言えます。

それなりの費用と時間、手間を覚悟して、慰謝料の請求に臨む必要があります。

脳脊髄液減少症が後遺障害認定されるには

脳脊髄液減少症が交通事故の後遺障害として認められる確率は、現在のところあまり高くありません。個人交渉ではなく弁護士に相談したとしても、後遺障害認定の高い壁となる2つの要素があります。1つ目は、診断基準が確立していないので、脳脊髄液減少症であると証明することがまず難しいことです。

先に述べたように、画像診断や腰椎穿刺である程度病気を示すことはできますが、それだけで確実に脳脊髄液減少症であると認定されるわけでもありません。2つ目は、その脳脊髄液減少症が、交通事故によって発症したものであるかどうか、を証明することが難しいことです。

もともと頭痛やめまいの持病がある方ならなおさらです。事故にあった当初から「自分は脳脊髄液減少症なのでは?」と考える人はまずいません。事故から何年もたつのに、頭痛や倦怠感、感覚過敏の症状がおさまらず、色々な病院で診てもらってやっと判明することがほとんどです。

その状況で、脳脊髄液減少症と思われる症状が事故を境に始まったと証明することは、相当困難であると考えられます。外見からは症状が分からない病気である脳脊髄液減少症は、なかなか周囲の理解を得にくい病気です。交通事故の後遺障害として認められる可能性は今のところ低いことは事実です。

しかし治療法はある程度確立しており、病気の立証に力を入れている弁護士事務所も存在します。そのまま苦しみ続けるよりは、治療や交渉のアクションを起こしてみるのもひとつの手ではないでしょうか。